食いしん坊

まだダビデが小さい子供の頃のこと、
家を空けて戻ってくるとキッチンのゴミ箱が倒れ、
中の生ゴミが散乱していることがたびたびあった。
ウチはマンションの1階でもないのに野良猫でも入ったのだろうかと勘違いしたほどだ。
もちろん正体はダビデだ。
ゴミ箱に捨てた焼き魚の皮の匂いを嗅ぎつけ、
その皮と骨を取りだしてポリポリ食べている。
ひえーっ、骨が喉に引っかかったらどうするの?と心配して大騒ぎするけれど、
本人は満足げに毛繕いなどしている。
またある時は燃えないゴミ用の袋からお刺身の入っていたパックを見つけては、
血のついたパックの底をペロペロ舐めているのだ。
吸血鬼と見まがうその姿に感動すら覚えたものだ。
ご飯やオヤツを食べる早さは尋常じゃなかった。
早く食べれば次のものがもらえると思っている単純な思考回路。
食べている時の顔と動作はいつもとは異なりワイルドになっていて、
これが猫の本性なのかと妙に納得させられた。
そんなこんなで、気づけば体重は8kgの大台に…。
私のことをご飯係と思っているので、お腹が空くと私にストーカーをする。
ジーっと見つめながら最初は可愛らしく甘え、
それでも思い通りにならないと机の上から物を落とす嫌がらせ攻撃、
最後はお決まりのガブリと囓る作戦だ。
そこでいつも私は根負けして腰を上げてしまうのであった。
あぁ、飼い主は今日もダビデに破れたり!と白旗を揚げる。


水飲みへのこだわり

なにせ、普通の水入れから水を飲まないダビデ。
洗面所の蛇口から流れる水を飲むクセをつけてしまったことが、
私の大きな後悔のひとつでもある。
水入れに水を入れて常備しているのだがそっちは完全無視。
私が洗面所で顔を洗っていると洗面台に上り「水を出してくれ」とチョイチョイする。
蛇口から水を出してあげると今度は「蛇口を口元まで持ってこい」と命令する。
スライドする蛇口を片手に持ちながら、歯を磨くという器用な習慣もついてしまった。
しかも一回の水飲み時間がものすごく長い。
ガブガブと飲んでくれればいいのに、
まずは右手の先にちょこっとだけ水をつけてそれをペロッ。
しばしそのもったいぶった飲み方を楽しんだ後、ようやく直接水に口を付けて飲む。
ここからがまた長いのでうんざりする。
きっと流れている水が好きなのだろうと思い、
循環式水飲み器とやらを2 種類買って試してみたが全く使ってくれず、
すぐに押し入れ行きとなった。
そんなある日、こっそりダビデの様子をうかがっていたら、
ご飯を食べた後で水入れから水を飲んでいるのを目撃した。
「何だ、飲んでるんじゃない」と喜んだが、
私に見つかったことがバレたらプライドの高いダビデのことだ、
もう二度と水入れから飲んでくれないかもしれいと思い、見なかったふりをした。
「水なんか飲んでませんよ」という顔をして、しら〜と私の前を通り過ぎていくダビデ。
しかし彼の口元が濡れているのを私は確かに見たのだ。
決定的証拠という言葉はダビデにはわからないだろうけどね。


主役はダビデ

フリーランスで仕事をしている我が家には、仕事上のお客様が時々やって来る。
ダンナの場合、お客様にはリビングにある3人掛けのソファに座ってもらい、
本人は自分の椅子を持ってきて打ち合わせをする。
椅子を置き「わざわざお越しいただいて」などと挨拶をしてから椅子を引くと、
重たくて動かない。見ると白い物体が乗っている。ダビデだ。
彼は椅子をもう一度引いて、ダビデにどいてもらおうとするが
ダビデはガンとして動かず、涼しい顔をしている。
その後も椅子に座ってから、負けじとお尻の圧力でダビデを追い出そうとする。
もちろん巨体のダビデはビクともしない。
その後彼は全ての努力が無駄だったと諦めたように、
椅子の半分をダビデに分け与え、
自分は半腰状態で座りながらお客様と仕事の話をすることになる。
椅子からお尻半分ハミ出しながら真面目な話をしている様子は
何ともおかしく、説得力もなさそうだ。
お客様が苦虫を潰したような顔をしながら見て見ぬ振りをしているのがまたおかしい。
その光景を何度となくこっそり目撃しては陰でクスクス笑っている私。
もう1脚、別の椅子を持ってくればすむのになぁ。
でもそのことはまだこの光景を幾度となく楽しみたいから私だけの秘密なのだ。

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